サドベリースクールを卒業すると、どんな大人に?

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そんなご質問を、時々いただくことがあります。

日本でのデモクラティックスクールの歴史はまだ浅く、そこに通った先に何があるのか、目に見える事例が少ないのです。

そんな生徒・保護者の不安な気持ちに少しでも寄り添うことができればと、兵庫県のデモクラティックスクール「まっくろくろすけ」を卒業したご姉妹が新田サドベリースクールを訪ねてくれました!

ぽかぽかと暖かい午後、生徒・スタッフ・保護者からのたくさんの質問に、丁寧に答えてくださった児島こころさんといのりさん。やりとりのほぼすべてを、以下そのままにご紹介しますので、ご参考になさってくださいね!

【最前列 左がこころさん、右がいのりさん】

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児島こころさん
小学校2年生まで公立の小学校に通い、その後兵庫県のデモクラティックスクール「まっくろくろすけ」に入学。17歳で「まっくろくろすけ」を卒業した後、様々なアルバイトを経験。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけにライフスタイルについて考え直すようになり、現在は兵庫県淡路島在住。薪を使って料理をしたり、狩猟免許を取得して鹿を自分たちでさばいたり、豊かな暮らしを楽しんでいる。

児島いのりさん
小学校に入学後1か月で不登校状態となり、「まっくろくろすけ」に通いはじめる。15歳で「まっくろくろすけ」を卒業した後は様々なアルバイトを経験したほか、洋裁学校に合計2年半通って技術を身につけた。東日本大震災を経験し、原発に頼らない暮らしを目指して兄弟とともに脱原発運動を行うも、少しずつ価値観が変化し、脱原発運動に力を入れるよりもまずは自分たちが豊かな暮らしをすることが大切なのではないかと考えるようになり、現在は姉と一緒に淡路島で自分たちの力を頼りにする暮らしをしている。

Q. サドベリースクールをやめてから、何歳くらいで勉強をはじめましたか?

A. いわゆる学校の教科書で習うような勉強は全然しなかったけれど、洋裁など自分の興味のあることは一生懸命勉強しました。文字などは、友達と手紙のやり取りなどをするうちに自然に読んだり書いたりできるようになったように思います。
「まっくろくろすけ」で、英語の授業を週に1回受けていました。漫画が好きで、「新撰組」という漫画に感動してから中学校の歴史の教科書はすっかり読んでしまいました。いまだに算数は苦手で、掛け算も二の段くらいまでしかできません。でもそれで困ったことはあまりなく、掛け算や割り算が必要な場面では隣の人に頼んだり、状況に応じて得意な人に助けてもらったりしています。
人それぞれに、向き不向きというものがやっぱりあって、その人にとって必要な学ぶべきものは、必要なタイミングでやってくるものなのだなと感じています。例えば私たちの弟は小さいころはとても落ち着きがなく、ご飯を一口食べては部屋の中を一周して、また一口しては次の一周に出ていくような子どもでした。今であればもしかしたら○○症というような名前を付けられていたかもしれません。しかしその弟は現在非常に哲学的な、深い思考をする大人に成長し、私たちもとても尊敬しています。悩んでいるときには弟がとても的確なアドバイスをくれます。現在も文字を書くのはあまり得意ではないようですが、彼の人格・人生にとってそのことはあまり大きな影響を及ぼすものではないように思います。

Q. デモクラティックスクールを卒業するとは、どういうことなのですか?

A. 私たちが入学した当初は、「まっくろくろすけ」にも卒業のシステムはありませんでした。しかしある子が「まっくろくろすけを″卒業″したい。卒業の制度を作りたい」と提案。『生徒とスタッフの前でスピーチをし、7割以上の人からOKをもらうことができれば「まっくろくろすけ」の卒業生だと認められる』というルールができました。その人はそのルールに則って卒業生となりましたが、デモクラティックスクールではルールは常に変化するため、卒業の認定方法も時によって変化します。ある時は在籍年数が重要になったり、またある時は在籍年数は関係がなかったり。卒業するっていうのは自分がよく学んだと思い、周りからもそれを認めてもらうということですね!

Q. 私は、このままサドベリースクールに通っていたらどんな大人になっちゃうんだろう?と不安になることがあります。

A. 私はどんな大人になるんだろうというよりも、「え?私まともな大人になれないの?」という不安を持たされていたように思います。周囲の人に「学校に通っていなくて、まともな大人になれるのか?」「大人になった時に困るんじゃないか?」とかそんなこと言われたら不安になっちゃいますよね!なりたい大人になればいいだけの事なんですけどね。まぁなんやかんやで無事に大人になりました!(と、自分では思っていますw)

Q. 子どもをサドベリースクールに通わせるうえで、未来に対する不安がどうしても抜けません。お二人のご両親はどんな方々なのか、興味があります。

A.父はとても自由な人で、自称「日本初の不登校児」だと言っていました。学校へ行かなかった父に比べて、母は学校が大好きな人だったので両極端な組み合わせです。父は自分が不登校だったからか、4人の子どもすべてが学校へ行かなくても特に不安には感じていなかったと思います。
しかし自分が大人になって、多くの「親」の方々に会うようになって、自分の子どもに厳しくあたったり子どもの将来を不安に感じていたりするのも、一つの愛の形なのだなと思うようになりました。「子どもの将来が不安だ。」という方のお話をよくよく聞いていくと、結局は「子どもが自分の思うとおりの人生を進んでいかないのではないだろうか。」という不安なのではないかと思います。他人であれば、「あなたはそんな人生を選んでいるのね。」と、客観的に対応できるのに、わが子となるとどうしても自分の思うようにしたい。それは、本当にその子の幸せを願っているのか、それともその子をコントロールすることで自分が安心したいのか。親本人も理解していない場合が多いと思います。
父は常に、「どんなことをしていようと、君が幸せならばそれで僕も幸せだよ。」という態度を貫いてくれていました。親が先回りして「ああならないように。」「このような人生になるように。」などと子どもの人生に口出し・手出しをすることもできるけれど、きっとその子自身が何らかの困難に出会ったときに、自力でそれを乗り越えた時の喜びの方がずっと大きいのではないかと思います。親がわが子のために良かれと思っていろいろと用意したとしても、それが本当にその子の人生の役にたったのかどうかは、結局のところわからないと思います。親が用意した事がその子に必要な事だったとしたら最高ですが、もし親が用意した何かがその子に必要ない事だったらそれに取り組む間に、本来その子がもっと必要としていた事柄に取り組むための時間を奪っているかもしれません。
一方で、親がわが子を思って悩むことは、決して悪いことではないと思います。悩みは悩みとして、抑えこむのではなくその時々に、素直に子どもにその不安を伝えてみるといいのではないでしょうか。「お母さんは、今のあなたを見ていてこんなことを不安に思っているんだけど。」とそのままに伝えれば、きっとその子なりの考えを返してくれるのではないかと思います。子どもも親も、それぞれに素直に自分らしくいることが大切だと思います。

Q. 学校に行かなかったことで困ったことは何かありますか。

A.デモクラティックスクールでは何事も話し合いで解決しているという事だけを知っている人と話し合いをした時に「デモクラティックスクール特有の話し合いの進め方があってそれを勝手に用いている」と思われた事ですね。

あとは、自分のおじいちゃん、おばあちゃんに認めてもらえなかったことが思い浮かびます。私にとっては、デモクラティックスクールで過ごしてきたことが私の人生そのもの。それなのに、学校へ行かないことやデモクラティックスクールに通っていることを悪く言われると、私の人生そのものを否定されているようで深く傷つきました。学校に行っていたら、そんなことも言われず人生を否定されるかのような感覚を抱くこともなかったかもしれません。日本では、最も古いデモクラティックスクールと言われている「まっくろくろすけ」ですら20年の歴史しかありません。デモクラティックスクールを卒業して社会に出た人の総数が少なく、歴史が浅いことはデメリットだと感じることもあります。学校以外の学びの場所について知らない人が多くて、理解してもらえないことも残念です。
勉強しなくて困ったことがあるかと聞かれれば、私自身は「何か困ったことがあれば、その時に学べばいい。だから、知らないことがあってもOK。」と思っています。いつでも学ぶ人であればいい。今も、わたしの人生で掛け算をマスターする日がくるかも!これから大学に入るかも!と、わくわくしています。

Q. おふたりにとって、「学歴」とは何ですか?例えば、履歴書の学歴欄に何を書くかときになりませんか。

A. 15歳で「まっくろくろすけ」を卒業しましたが、わたしには高校へ行く理由が見つかりませんでした。数年後に美術系の大学に行きたくなった時に、高校へ行かなかったことを少し後悔しましたが、よく調べれば高校を経なくても大学へはいつでも行けますよね。
例えば、学歴が重視されるような大企業でバリバリ働きたい人は、履歴書に書けるように学歴を大事にしたらいいと思います。私は、どこの学校を出たのかという履歴よりも私という人間をしっかり見て評価してほしいと思うので、履歴書・学歴などはあまり気になりません。人それぞれで必要なものは違うと思うので、学歴が必要な人はそれが得られるような努力をしたらいいのだと思います。

Q. デモクラティックスクールに子どもを通わせている、あるいは子どもを通わせようかどうか迷っている保護者へのメッセージはありますか。

A. 不安のもとは何なのか、自分は何を・なぜ不安に思っているのか、どんどん突き詰めてご自身と向き合ってみたら、答えが見えてくるのではないかと思います。ぜひ、何事もお子さんと一緒に考えてください。子ども優先でもなく、保護者の思い優先でもなく、一緒に取り組んで考えていただくのが良いと思います。

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お話会のやりとりは以上です。

お話の内容はもちろんですが、「おふたりの存在そのものがキラキラしていて、とても眩しかった!」と保護者様からの感想にあったほど、自己肯定感に満ちたおふたりの存在そのものにとても説得力がありました。

このお話会の後、もうお一人、関西のデモクラティックスクールOBの男性にも、オンラインでお話を聞かせていただきました。

その様子は、また後日ご紹介しますね!